他人の事を「好ましい」と思ったことは何度もあるが「愛おしい」などと思うのは初めてのことで、自分で自分の感情を持て余してしまっている。
初めは面白い男だと思っていただけだった。年齢の割に純粋で、しかし世界の広さを知らぬ子供とは違う達観を持った彼の不器用さを危なっかしく思いはしたが、本当にそれだけだったのだ。
だが、同じユニットのメンバーとして時を過ごしている内にいつの間にか、そんな彼のことをひどく愛おしいと思うようになっていることに気付いた。気付いたところで相手に何を求める訳でもなく、この感情が一般的に恋愛感情と言われているものであるのか、それとも他の何かであるのかの判断がつけられないまま「愛おしい」という感情だけを持て余しながら毎日を過ごしている。
「雨彦!」
今や彼がこうして笑顔で自分の名を呼ぶだけで胸の奥から温かいものが満ちて行くような感覚に襲われるのだ。不快ではないが、こんな感覚があるのかと少し不思議に思う。
けれど、彼に何かして欲しい訳でもなく、ただただ愛おしさを溢れさせているだけの現状は少し勿体ないような気もした。