あの嘆きを繰り返せというのか

 暁ナハトを撃った翌日、ノイは今までと同じように当庁した。同僚達と挨拶を交わしながらロッカー室で隊服に着替える。今までと同じ、いつもと変わらない日常のひと時だ。だというのに、その光景にノイは何故だか何とも形容し難い違和感を覚える。
 ナハトの件の処理は一旦上の預かりになったとは聞いていた。だが、それにしても庁内に流れる空気があまりにもいつもと変わらず平穏だからだろうか。
 理人はノイよりも先に当庁していたようだった。覚悟の末に行った事とはいえ、直接ナハトと過ごしたこともあったのだ。流石に様子が気になった。
 予定通りに過ごしているなら理人は今頃トレーニング室に居るだろうか。そんなことを考えていると、既に勤務中であった同僚のひとりがロッカー室に顔を出し「トレーニング室で面白いことが始まった」と告げて来た。その言葉に弾かれたようにしてノイは走り出す。
 おかしい。
 この騒動の理由をノイは知っている・・・・・・・・・・・・・・・・
「これは何事!?」
 異様な盛り上がりを見せるトレーニング室にたどり着き、ノイは手近な隊員の肩を掴み問い詰めた。そんなことがある筈がない。
「管理官がいきなりやって来て、お前の相棒と遊んでるのさ」
「元バディ同士、新旧最強対決だ」
 返された言葉にノイは言葉を失う。あり得ない。
 だが、ノイの思いとは裏腹に、トレーニング室にあるリングの上では見知った二人がやり取りをしている。
「今はお前が現役最強と聞いていたんだがな」
「怪我人相手に本気は出しませんよ」
 ノイの目線の先では、昨日ブラスター越しに決定的な決別をした筈の二人手を取り合っていた。
 何故。どうして。
 ノイにこの日に合わせてタイムワープをした記憶は無い。ガジェットの使用履歴を見てもそんなものは存在しない筈だ。ノイの意思でタイムワープした訳ではないとすれば、寝ている間に誰かにタイムワープで連れて来られた可能性だが、タイムワープにはそれなりに負荷がかかる。気絶させられたのでもない限りタイムワープをすれば気付く筈だし、なによりもそう悟られないようノイをこの日に連れてくる理由が分からない。
 混乱するノイを尻目に、目線の先の二人はお互い決別したことなど知らぬ様子で会話を交わしている。
 引いたトリガーの重さを、震える理人の指の感触を、まだ明確に覚えているのに。理人の痛みを堪えるような表情が焼き付いているのに。
 まるで昨日見たものは全て夢だったのだと、そんなことは無かったのだと告げるように、ノイの目の前で二度目の光景が紡がれていく。
「なんで」
 ノイの呟きは周囲の歓声にかき消された。