後悔噬臍

 失敗したな。ノイと共に引き金に指を掛け、苦しそうな表情をした理人を見て、ナハトはそう思う。

 この結末はナハトが望んでいたものだった。理想郷を作るという野望を打ち砕かせる計画は誰にも知られることなく完遂された。そのことに満足していた。
 理人の死を回避する為、何度も人生を繰り返した。何度も失敗し、理人を生かす為には父や自分が犠牲にならなければいけないという所まで突き止め、今度こそ理人が生きる未来へ繋ぐことが出来るのだ。満足行く結果以外の何物でもない。

 だから、こうして理人に撃たれる瞬間まで気付かなかった。何度人生をやり直しどんなに関係を変えようがナハトが理人にどうしようもなく惹かれてしまうように、理人もナハトに惹かれてしまうという可能性に。
 どんなに理人に惹かれその存在に焦がれようが、好意を示さなければ大丈夫だと思っていた。そういった好意さえ見せなければ、理人から自分のことをバディや上司以外の存在として好いて来ることなどないと思っていたのだ。
 自分には以前の人生の記憶がある。一度惹かれてしまった以上、その感情を忘れることなど出来なかった。惹かれた記憶があるからこそ、理人に惹かれてしまうのだと思っていた。
 それが酷い思い違いであったことに、最後の瞬間になって漸く気付くとは。理人に辛い選択をさせることになった申し訳なさを覚えると同時に、理人が自分に惹かれていたという事実に喜びを覚えてしまう自分は救えない存在だと思う。
 理人に嫌われるように振る舞えなかったのは、好かれていた方が都合が良かったからではない。ナハト自身の心の弱さからだ。計画を達成する為には、むしろ嫌われていた方が都合が良かったというのに。無意識のうちにその選択肢を排除してしまう程に理人を好いてしまっていたから、理人に嫌われる覚悟を持てない程自分が弱かった為に、こうして惹かれた人間を自ら手に掛けるなどという負担を理人にかけてしまった。
後悔しても、もう遅いのだけれど。

 ブラスターの放つ光に包まれ、そんなことを考えながらナハトは意識を霧散させた。