この世界において、癒しや修復の魔法は多くの場合水属性に分類される。水属性に多い厳密な理由は解明されておらず、多くの人々は「そういうものだ」と漠然と納得している。そして、多くの水属性の術者と同じようにスヴェンも癒しの効果がある魔法を行使することが出来た。
尤も、ある程度の戦闘力を持つスヴェンや、スヴェンが付き従いスヴェン以上の強さを持つアロルドが癒しの魔法を必要とすることは殆ど無いので、スヴェンがそれを使う機会は全くと言って良いほど無いのだが。
「何故ぬいぐるみなのでしょう」
不意にスヴェンがアロルドにそう尋ねたことがある。基本的にスヴェンはアロルドの行為に口を挟まないので、珍しいなとアロルドは三日月のように口を歪ませる。
「不服か?」
「いいえ。ですが、人形の方が便利なこともあるのでは、と」
表情を変えぬままスヴェンはアロルドが手にしたぬいぐるみを見つめながらそう答えた。硬質で美しい顔は、彼こそを人形のように見せている。
「人形はあまり好きじゃない」
「そうですか」
納得をしたのか興味が失せたのか、それきりスヴェンは口を閉ざした。スヴェンとアロルドの間であまり長く会話が続くことはないので、こんな会話の終わり方をするのもいつものことだ。
アロルドが人形をあまり好まないのは事実だ。正直な話ぬいぐるみだろうが人形だろうがどちらでも良いのだが、人形の破損はスヴェンが魔法で修復することが出来るのでアロルドは専らぬいぐるみを好んでいる。材質の問題なのか、スヴェンの魔法では人形の修復は出来るのだが、ぬいぐるみの修復は出来ないのだ。
「――さて、遊びに行くとしよう。行くぞ、スヴェン」
「はい、アロルドさん」
スヴェンが癒すのは自分だけで良い。手にしたぬいぐるみを床に放り投げ、アロルドは退屈が凌げそうな場所へ向かった。