何度目かの映画出演の仕事。所謂SFもので、雨彦が演じる暁ナハトという人物は、古論が演ずる理人・ライゼの元バディであり黒幕というべき役柄であった。
尊敬する上司であり信頼している元バディがもたらす未来に衝撃を受けながらも、現バディの真白ノイと力を合わせ未来を守る為に理人はナハトと決別する。平たく言うとそんなストーリーであった。
ナハトは理人に己の野望について何も教えなかったらしい。作中の理人の狼狽ぶりを見れば一目瞭然だろう。バディとして理人以上の人間は居ないと思いながらも、己の事情を何も告げないままだったらしいナハトに雨彦は自分の姿を重ねていた。
雨彦の最後の出番である理人との決別のシーン。理人と硬い信頼で結ばれたノイを——その二人を演じる古論と北村を見て、彼等の傍らに自分が存在しない未来を見て、雨彦はシンプルに「嫌だな」と思う。『あの場所』を手放したくないのだと、自覚しない訳にはいかなかった。
ナハトが掴まなかった未来を、自分は掴めるだろうか。これから歩み寄って行けば、まだ。
波の音が響く。波打ち際では古論と北村が何やら見つけて語らいでいるようだった。磯の香りのする風を身に受けながら、雨彦はその様子を眺めている。
踏み出す決意をした雨彦を古論も北村も快く受け入れてくれた。彼等も自分と歩んで行きたいと思ってくれているのだろう。その考えが思い上がりではないと、二人の表情が語っている気がした。
ナハトはこんな風に理人と話をしようと考えなかったのだろうか。話をしていれば、ナハトと理人そしてノイの三人が笑顔で並び歩んで行く未来があったのかも知れない。物語の中では実現しなかったこの光景を途切れさせないような未来にしたいと、強く思う。
「雨彦!」
「雨彦さんもこっち来なよー」
「ああ、今行く!」
夏の名残のような日差しが眩しかった。